アマゾン × 商標権
出品規約改定と相乗り排除について・Part1
なお、以下は狭義の中国輸入[*]のみに関連する解説です。国内外のブランドホルダーの方にはそのまま当てはまらない部分もありますのでご注意ください。
まずはアマゾンの出品方式について簡単に説明します。アマゾンでは商品カタログという方式を取っていて、商品単位で出品するシステムです。
たとえばアップルのiPhone5という商品については、iPhone5について1つの商品カタログが作成され、複数の出品者全員がそこに出品をします。
これはかなり独特な方法で、他のモール、たとえば楽天やヤフーでは出品者単位での出品を前提としています。つまり、出品者単位でそれぞれ独自にiPhone5の販売ページを作成して販売します。他人の商品ページに出品することはできません。たとえ商品が同じでも仕入ルートや保管状態、発送方法、梱包やカスタマーサポートの差異が出品者ごとにあることを考えればこれは当然とも考えられます。
アマゾンがこの独特のカタログ方式を採用しているため、出品者間で問題が生じています。
商品カタログは、誰でも作れます(注:有料の出品者登録が必要)。その商品を最初に出品する人が商品カタログを作成します。
逆に言うと、二番目以降にその商品を出品する人は、商品カタログを作成する必要なく、既存の商品カタログに出品手続をするだけで簡単に出品できます。
商品カタログを作成するには、商品の各情報を入力し、商品説明文を作成し、商品写真を用意しなければなりません。手間とコストがかかります。さらに、その商品のランキングを上げるために価格を調整したり購入者の要望に応えるために商品説明を書き換えたりする必要もあります。
二番目以降にその商品カタログに出品する人は、そうした手間やコストを一切掛けることなく、簡単に出品できてしまいます。
このような出品方法を、業界では相乗りとか被せと呼んでいます。
相乗り出品はアマゾンでは許される、というよりそう出品することこそがアマゾンのルールです。
が、商品カタログを作った人は、他のモールのようにその商品カタログを独占したいと考えます。
せっかく良い商品を見つけて、手間とコストをかけて商品カタログを作成し、その後も努力して商品のランキングを上げたのにそこに簡単に相乗りされてはたまらないと考えるのは、少なくとも感情的には一部理解できます。
たしかにアマゾンの出品ルールには欠陥があります。カタログ主義すなわち相乗りOKが前提なのですが、相乗りされる方の立場に立つと、上述の通り商品カタログを作成する手間とコスト、ランキングを上げる努力に対するメリットが何もつけられていない。
せめて相乗りされた場合に商品カタログ作成者のカートボックス獲得率を上げるなどの措置がなされない限りフェアとはいえないと思います。
このような背景があり、アマゾン出品の世界ではカタログ作成者と相乗り出品者との間で排除する・されるという攻防が繰り広げられてきました。
相乗り排除するために、これまで様々な方法が採られてきました。
例えばJANコードが違うとか、パッケージが違うとカスタマーサポートに連絡して相乗り排除(出品削除)してもらうなどの手法が採られたようです。
たしかにそれぞれ合理的な理由があったのでしょうが、アマゾンでは商品カタログ主義を採用しているため、すぐに規約を改正して相乗り排除の対象外とする措置がなされてきました。
こうして相乗り排除について出品者とアマゾンカスタマーサポートの攻防も続けられてきたわけですが、現在は商標権を用いて相乗り排除する方法が主流です。
店舗名や商品ブランドを商標登録して、その商品カタログに相乗りした人を商標権侵害としてアマゾンカスタマーサポートに言いつけて排除してもらうわけです。
これまで商標権の範囲からは微妙なケースまで画一的に相乗り排除できていたようですが、最近になってアマゾン側の対応に変化があったようで、相乗りする方・される方ともに大きなインパクトを与えています。
さてここまではアマゾンで出品してる人には常識の範囲の話でした。ここからはもう少し専門的な話をしましょう。
商標権と一言で言ってもその内容は様々です。アマゾンでカバンを売っている場合を例に考えてみます。
アマゾンの相乗り排除の観点のみから見たときに、商標権の範囲(指定商品役務)を
- 「カバン」とする(商品商標)
- 「カバンの小売」とする(小売役務商標)
という2つの選択肢があります。
どう違うかというと・・・
1.「カバン」とすると商品のブランドになります。
どこで売ろうが、誰が売ろうがその商品のブランドは揺るぎません。
2.一方で「カバンの小売」とすると、そのお店のブランドになります。
その店舗がアマゾンでカバンを売るときにいろいろなサービスをしますよね。商品画像を配置したりお客さんからの問合せに応じたり。そういうサービスについてのブランドが後者です。なのでお店の名前が同じである限りどこで(どのモールで)売ろうがどんなカバンを売ろうが権利範囲に入ります。
では、アマゾンで相乗り排除するにはどちらの権利を取ればいいのでしょうか。
商品商標で相乗り排除できそうなのはわかると思います。ブランド名欄にその商標を記載しておけば、他人がその商品カタログに出品したらブランドが違う=商標権侵害と主張できそうな気がします。
一方で小売役務商標の場合はどうでしょう。
この商標権の範囲はお店のサービスですから、商品のブランド欄に商標を書いても意味がありません。メーカー名欄も関係ないでしょう。商品タイトル欄にあってもやはり店舗名とは考えづらいです。実際その商品カタログ(出品ページ)を見ても、出品者欄にはその販売店舗(カートボックスを獲得した店舗)名が表示されるので、店舗名としてその商標はどこにも出てきません。
つまり、商標法の観点からは、アマゾン相乗り出品は小売役務商標の権利範囲に入らないと言えそうです。
ところがこれまで、アマゾンでは商標権の内容が商品商標か小売役務商標かにかかわらず、すべて商標権侵害として相乗り排除する運用をしてきました。
おそらく内部で基準が固まっていなかったため、個別の判断をして対応がブレるのを避けるためだったと思われます。
このように小売役務ではアマゾンの相乗り排除は法律上無理があるということはこれまでに多数してきされてきていました。
それでも多くの出品者が小売役務での商標権を目指した理由は、取得コストが安いからに他なりません。
仮に商品商標で取得する場合、商品ラインナップが豊富な店舗さんは指定区分が増えて商標権取得コストがかさんでしまいます。
しかしこれを小売役務にした場合、すべての取扱商品を第35類でカバーできるため、1区分のコストのみで済みます。
このような背景もあり、アマゾン出品者さんの間で小売役務で商標権を取得するケースが多くありました。
上記説明してきたように、現在のアマゾンでは法律的に根拠のない商標権の使い方がされてきました。しかしこれは法律的な矛盾を有することに加え、カタログ主義というアマゾンの根本的なスタンスにも反する対応でした。そこで今回、以下のように出品規約が変更されました。
ノーブランド品に対し、不適切に商標を付して商品画像に掲載する行為、及び、ブランドとの不適切な関連付けの言葉を商品ページに含める行為:
- 出品者が保有している商標を、恒久的でない方法(例:シール、ラベル、タグ等を貼付する等)でノーブランド品に付して商品画像を掲載することは禁止されております。
- また、ノーブランド品(シールの貼付等恒久的でない方法で商標が付されたものも含む。)の商品ページにおいて、出品者が保有している商標に言及すること(商品タイトルに商標を付すことを含む。)は禁止されております。
Amazon.co.jpは、本規約に抵触する商品、商品ページ、又は商品画像を削除又は修正する権利を留保します。
この新ルールの範囲はどこまで入るのでしょうか。以下検討します。
新ルールでは「ノーブランド品」を対象にしています。まずはこのノーブランド品の対象を明らかにしましょう。
アマゾンではノーブランド品について特に定義していません。「ノーブランド品はブランド欄に『ノーブランド品』と書け」という簡単な規則があるだけです。同様にブランド品についての定義もないので推測するしかありませんが、これは常識で考えて、「製造者(メーカー)によりブランドが付された商品または商品郡」と解釈できると思われます。
逆にいうと、ノーブランド品とは、製造者(メーカー)によりブランドが付されていない商品または商品郡ということになるでしょう。
ここでいうブランドとは要は商標のことですから、言い換えるとメーカーにより商標が付されていない限り、たとえ流通過程で商標を付しても、それはアマゾンではブランドとは捉えないと言っているのです。
では「流通過程で商標を付す」とはどういう行為をいうのでしょうか。これも新ルールで明らかにされました。
それは、商標をシール、ラベル、タグ等を貼付するなど、恒久的でない方法で商品に付す行為です。
つまり商標を付したければ製造段階で、取り除けない方法で付けておけと言っているのです。
シール、ラベル、タグなど・・・というのは、流通過程で付けるものを例示しています。したがって、他の方法であっても、製造時に付されたのでなければ、ほとんどすべての場合流通過程で付されたとみなされると考えて良いでしょう。
さて実は上記見ただけで新ルールのほとんどがわかってしまいました。
新ルールがどのように効いてくるか、アマゾンでは親切に説明してくれています。
これが意味するところは、製造時に商標が付されていない商品に流通過程で商標を付しても、それを商品写真として使用することはできませんということです。
これまでの運用だと、おそらく「商品写真では商標付きの画像になっているが相乗り商品では商標がついていないから別商品だ、だから排除してくれ」というロジックが通用しました。しかし新ルールでは流通過程で商標を付したものはそもそも商品写真に使用できないので、このような主張をすることができなくなります。
新ルールではさらに商品ページの記載についても言及されています。
まずここで明らかになるのは、シールの貼付等恒久的でない方法で商標が付されたものもノーブランド品に含まれるというアマゾンの立場です。すなわち、流通過程で商標を付した商品はアマゾンではノーブランド品として扱うと言っているのです。
たとえ流通過程で商標を付してもアマゾンではノーブランド品として扱われてしまうので、商品ページで商標について記載することは許されないと言っています。一応筋は通っています。
ここで、商品ページとはどこまでをいうのかが問題になります。が、敢えて「商品説明」と言わずに「商品ページ」と言っていることから、メーカー名やブランド名を含む全ての情報が対象となると考えられます。商品タイトルについてはご親切に名指しで指定されています。
つまり、流通過程で商標を付した商品の商品カタログでは、例え商標権を取得していても、ブランド名欄含めどこにもにその商標を書くことはできないと言っているのです。
この新ルールにより、これまで相乗りの攻防を繰り広げてきた出品者さんたちには、少なからぬ影響があると思われます。
これまで商標権を根拠に相乗り排除してきた出品者さんは、苦しくなります。今後は中国輸入の商品はアマゾンではノーブランド品として扱われてしまうからです。相乗り排除のハードルは上がったと言えるでしょう。
一方で、相乗りをしているみなさんにとっては嬉しい改正でしょう。これまでのように簡単に排除されることは少なくなると予測されるからです。
では今後は商標権を用いて相乗り排除はできないのでしょうか?
結論から言うと、かなり厳しくなりそうです。
これまでは、上述の通り商品商標で取れば強い、小売役務で取れば弱いがアマゾンの運用で当面は排除可能、というロジックでした。しかし新ルール下では、どの類で取ろうが、そもそも流通過程で商標を付した商品はアマゾンではノーブランド品という扱いになります。商標権を根拠に相乗り排除するのはかなり難しくなったと言えるでしょう。
しかし、弊所でもアマゾン出品者の方から何件か商標出願をご依頼頂きました。このまま「無理です」と引き下がるのは気が引けます。
実はいくつか対応策があります。
新ルール下でもおそらく相乗り排除できる方法があります。
しかしそれはここでは書けません。同業者さんもいらっしゃいますし、何より弊所で出願してくださった方にメリットをつけるのが弊所からの恩返しになると考えるからです。弊所のお客様のみに個別にお伝えします。あしからずご了承下さい。
これまで説明してきたとおり、商標権を用いた相乗り排除方法は厳しい際に立たされています。今後はこれまでのようなメリットはないかもしれません。
かといって商標権での相乗り排除を諦めるのは早いです。上述の通りまだ可能性は残されています(具体的方法は秘密ですが)。
もし他の相乗り排除方法があるのであれば、そしてそれが商標権を用いるものより簡単なのであれば、そちらを検討いただくのも一案でしょう。
しかしもしそういった方法がない場合は、やはり商標権の取得を検討いただくことをお勧めします。
弊所に出願をご依頼いただいた場合のみ、特別に対応方法を無料でお知らせ致します。
ここでひとつアドバイスできるとすれば、今後相乗り排除に向けて商標権を取得するのであれば、小売役務(第35類)ではなく、商品商標で取りましょうということです。
これまでは出願費用の観点から、多くの方が小売役務(第35類)を選択してきました。しかしこの新ルールを受けて、今後は商品商標を取得する方が圧倒的に有利になります。
費用負担は、確かに多少増えます。
しかし弊所では、区分数にかかわらず、何区分でも定額のアマゾン特別プランを用意しておりますので、こちらをご利用いただくことで費用負担を最小限に抑えていただくことができます。
まずはお気軽にご相談ください。
この新ルールに疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。
流通過程だろうが登録商標を付せばオリジナル商品じゃないか!と思われるかもしれません。
確かにそれには一理あります。
しかし一方で、アマゾンの立場にも一定の理解を示すことができます。
やはり商標のそもそもの役割としては、その商品がどこで作られたかを見分けるという部分が大きいはずです。製造主が保証されれば、その後の流通ルートは多くの場合それほど問題になりません。
例えば乱暴な例ですが、もしSONYがiMacを大量に買い占めて、それにVAIOというシールを貼って「これはVAIOだ、SONYのブランドの商品だ」と言い出したらどうでしょう。
やはり「いやそれはアップルの商品だ、後からブランドを付け加えてもダメだ」ということになるでしょう。
もう少し中国輸入に近い話をすると、中国で既に流通過程に乗っている商品は、誰でも買えて、誰でもアマゾンで売れる商品です。それに途中でシールを貼って「これはうちのオリジナル商品だ」と言っても、消費者から見れば「他社製品と中身は同じだし、区別する意味はない」ということになるでしょう。
うちが最初に見つけて最初にアマゾンで売って最初にヒットさせたんだ、真似するな!という気持ちはわかります。
でもやはり消費者から見ればそんなことはどうでもいいのかもしれませんよ。
これがもし、最初にその商標を開発してヒット商品にした、他社がそれを真似た類似品を作ったというケースだと、商品の内容が違うので消費者にとっては重要な問題です。
この商品の区別をするのが商標の本質的な役割です。
しかし同じ商品を流通過程で区別する、これは商標の本質的な役割からは外れています。
こう考えるとアマゾンの対応にも一定の合理性があるように思えます。
日本のように工業の発展に支えられてきた国では「モノを作る」と「既製のモノを探してくる」ではそれほどまでに決定的な差があるということなのでしょう。
ここ最近、小売役務(第35類)での相乗り排除が対象外になるという噂が出回っていましたが、アマゾンはそのだいぶ上を行く規約改定をしてきました。
カタログ主義と矛盾する要求にアマゾンは相当頭に来ていたのかもしれません。
上記説明では、アマゾンは「商標を付したければ製造段階で、取り除けない方法で付けておけ」と言っている、と書きました。
ではオリジナル商品はどうなるでしょうか?
例えばあるデザイナーさんがいたとします。彼は中国工場と契約し、自分のデザインを使用した財布を大量に製造しました。
彼は商品「財布」について商標権を持っていますが、財布本体にはその商標は付されていませんでした。パッケージには書いてあったのですが・・・。
この場合、彼は商標を「製造段階で、取り除けない方法で付けて」いないので、アマゾンではノンブランド品として扱われてしまうのでしょうか?
・・・・・これはアマゾンにきいてみないとわかりません。
が、おそらく問題になることはほとんどないと思われます。
なぜなら、
- 彼が自分で製造・販売するのだから、相乗りされたくなければ流通過程をコントロールすればよいから、
- 仮に流通過程をコントロールできずに他者がその商品を中国の卸売屋やなどで仕入れてアマゾンで販売する場合は、それはまさにアマゾンが予定する正当な商品カタログ(商品ブランドあり)への出品であり、相乗り排除の対象とはならないから、
です。
おわかりでしょうか、同じ商品を売るんですから、アマゾン出品では商標など関係ないのです。
財布に商標がない場合は両方ノーブランド品なので相乗りOK、財布に商標がある場合は両方本物なのでやはり相乗りOKです。
アマゾンの相乗りという概念は、流通者(=輸入者)間で起こり得る問題であって、製造者との間では決して起こらないのです。
製造者との間ですら相乗り排除が問題にならないのに、なぜ流通者間で相乗り排除が生じるのでしょうか。
そもそも相乗り排除という考え方がアマゾンのカタログ主義の中では斜め上を行っているからではないでしょうか。
本ページは主にアマゾン出品者さんにご覧いただくことを目的としています。
なのでできるだけわかりやすく書くことを重視し、法律用語などを一部正しく使用していません。
例えば「小売役務」という表現は専門家の方には怒られる書き方でしょう。
「商標出願」も、正しくは商標登録出願です。
このような細かい点は他にもいくつかありますが、どれも法解釈に影響のない範囲に留めたつもりです。
お見苦しい点をお詫びするとともに、万一文脈を取り違える表現にお気づきの際はご一報いただければ幸いです。