アマゾン × 商標権
出品規約改定と相乗り排除について・Part2

アマゾンの相乗り排除・その後
アマゾンの相乗り排除について、新しい規約の開始直後に、その内容及び運用の予測についての記事を掲載しました。その後実際にアマゾンが採用した運用についていくつか情報が入ってきましたので、その内容を反映させたアップデート記事を掲載することとしました。
新規約のおさらい
新規約では、以下の行為が禁止行為に追加され、規約違反となりました。

【禁止事項】
ノーブランド品に対し、不適切に商標を付して商品画像に掲載する行為、及び、ブランドとの不適切な関連付けの言葉を商品ページに含める行為:

  1. 出品者が保有している商標を、恒久的でない方法(例:シール、ラベル、タグ等を貼付する等)でノーブランド品に付して商品画像を掲載することは禁止されております。
  2. また、ノーブランド品(シールの貼付等恒久的でない方法で商標が付されたものも含む。)の商品ページにおいて、出品者が保有している商標に言及すること(商品タイトルに商標を付すことを含む。)は禁止されております。

Amazon.co.jpは、本規約に抵触する商品、商品ページ、又は商品画像を削除又は修正する権利を留保します。

この新規約を一言でまとめると、相乗り排除をするには、商標権を取得した上で、商品本体にその商標を入れておくことが必要、ということになります。実際に相乗り排除をするには他にいくつか条件があるのですが、少なくともこれらが要求されることが規約に明記されていることがわかります。

新規約での運用
新規約の施行後は、新しいルールに基づいた運用が行われています。相乗り排除が認められるにはいくつかのケースがあるようなのですが、典型的なものは、下記ルートによるものです。

  1. 何らかの商標権を取得しておく
  2. 商品本体にその商標を刻印/印刷しておく
  3. 商品カタログにロゴ部分の写真を掲載しておく

この3要件をすべて満たした上でアマゾンカスタマーサポートに商標権侵害の申し立てをすれば、アマゾン側で自動的に商標権侵害を根拠に相乗り出品を排除してくれます。
それでは、この運用について、法律的な観点から少し検討してみましょう。

相乗り排除の2つのルート
実は、相乗り排除には大きく2つのルートがあります。

ひとつは、商標法や民法などの規定を根拠に、法律的な手続きをして相乗り排除する方法。

もうひとつは、アマゾンの規約に違反することを根拠に相乗り排除する方法です。

弊所では、前者を法律ルート、後者をアマゾンルートと呼んでいます。

まずは相乗り排除には2つのルートがあって、それぞれまったく別の手続きだということを理解することが非常に重要です。

それでは、各ルートの内容を詳しく見てみましょう。

法律ルートとは?
商標権を所有している場合、その権利に基づいて相乗り排除することができます。通常はまず警告書を送り、相手が応じない場合は訴訟などの手続きをとります。こうした手続きは商標権侵害への対応と呼ばれ、商標権に基づき商標権侵害への対応をするルートを法律ルートと呼んでいます。
アマゾンルートとは?
アマゾンの規約違反の出品に対しては、アマゾンカスタマーサポートに連絡することで出品取下げなどの手続きをしてもらえます。これをアマゾンルートと呼んでいます。

アマゾンの規約には「商標権侵害をしないこと」が含まれているので、

商標権侵害をしている → アマゾン規約違反である → 相乗り排除してもらう

という流れになります。

商標権侵害をしているから相乗り排除できるのではなく、あくまでもアマゾンの規約違反だから相乗り排除できるのです。この二段階の構造は重要なので是非理解しておいてください。

「商標権侵害」のダブル・スタンダード
このように、法律ルート、アマゾンルート、いずれでも「商標権侵害」が相乗り排除のキーワードとなっています。しかし、この2つの「商標権侵害」はそれぞれ定義が異なります。これを理解しておかないと相乗り排除の本質を見誤ってしまいます。

法律ルートの「商標権侵害」は、法律用語です。法律用語は一義的に定義が決まります。一般に、法律用語における商標権侵害とは、権原又は正当理由のない第三者が、登録商標と同一又は類似の商標を、指定商品と同一又は類似の商品について使用することと定義されます。人によって多少表現の差はありますが、定義される内容はひとつに決まっています。

一方でアマゾンルートの「商標権侵害」は、アマゾンの世界の中だけで通じる定義です。アマゾン規約やアマゾンの運用で用いられる、アマゾンにより定義される用語です。そして様々な情報を総合すると、法律ルートの「商標権侵害」の定義とはだいぶ異なるものであることが見えてきます。

相乗り排除について考えるときは、その相乗り排除が法律ルートによるものなのかアマゾンルートによるものなのか、ひいてはそこで用いられる「商標権侵害」の定義がどちらなのかを見極める必要があります。

どちらのルートを選択するか
このように、相乗り排除では2つのルートのいずれか(あるいは両方)を選択することになります。しかし現実には、ほぼアマゾンルートのみしか選択できません。法律ルートによる相乗り排除は専門家に協力を依頼する必要があり、採算が合わない場合がほとんどだからです。

実際、弊所にご相談にいただく方との面談では、1時間のうち55分はアマゾンの規約についてお話しています。商標権の話は5分程度です。それは後述するようにアマゾンの相乗り排除では商標権の行使をしていないからです。

そこで以下では、アマゾンルートでの相乗り排除について、法律的な観点から解説します。

本当に商標権侵害しているのか? 〜商品商標編〜 1/4
アマゾンルートで相乗り排除するときの根拠は、アマゾン規約違反であることでした。そして、商標権侵害をすることはアマゾン規約違反に該当するため、商標権侵害を指摘することで結果的に相乗り排除できるというロジックなことも上で説明しました。そして、この「商標権侵害」は法律用語ではなく、アマゾンが勝手に決める定義によるものだということももうおわかりいただけたと思います。

では、商標権が取得されている場合に、その商品カタログに相乗り出品する行為は、本当に商標権侵害をするのでしょうか?まずは個別の商品を指定して商標権を取得している場合(商品商標)について考えてみましょう。

例えば、以下の内容の商標権が取得されているとします。

指定商品:かばん類(第18類)
登録商標:KOSHIBA

商品カタログには商標部分が写った商品写真が掲載されています。

本当に商標権侵害しているのか? 〜商品商標編〜 2/4
まずは非常にわかりやすい例から見ていきましょう。

上記の商標権と無関係の人が、『KOSHIBA』という商標を刻印したカバンを中国の工場で作り、日本に輸入してアマゾンで販売しているとします。

この行為が商標権侵害となるのは、専門家でなくてもわかると思います。要は、登録されている商標を商品に「つける」行為が商標権侵害となる、これが典型的な商標権侵害です。

ところが、相乗り出品の場合は、まったく逆です。相乗り者はそうした他人の商標を「つけない」商品を売るわけです。商品を「つけない」ことが商標権侵害となる場合はあるのでしょうか?

本当に商標権侵害しているのか? 〜商品商標編〜 3/4
まず、商標法のどの規定を見ても、商標を「つけない」行為が商標権侵害となるという記載はありません。商標の「使用」の定義は商標法2条3項1-8号に列挙されていますが、どれも商標を「つける」行為と、そうして商標を「つけた」ものを何かに用いる行為についてのみ言及されており、商標を「つけない」行為が問題になるとは読めません。

これは当たり前で、もし商標をつけないことが商標権侵害になるのであれば、何か商品を作るときには登録されているすべての商標を刻印しなければならなくなります。例えば「帽子」を指定商品にする商標登録は山ほどありますが、帽子を作る際にはすべての商標を印刷しなければ商標権侵害となると言われたらそれはおかしいと常識でわかるはずです。やはり相乗り排除においても、商標がついていない商品を販売する行為を問題にしているのではなさそうです。

本当に商標権侵害しているのか? 〜商品商標編〜 4/4
それでは、相乗り排除において、商標権侵害はどの部分について議論される余地があるのでしょうか。

ここでもわかりやすい例を挙げましょう。一度アマゾンを離れて、楽天や自社ショップで販売される場合を想定してみます。

上記商標権と無関係の人が、楽天でカバンを売るとします。カバンには商標が入っていません。いわゆるノーブランド商品です。

楽天などアマゾン以外のプラットフォームでは商品カタログ方式を採用していないので、各出品者は自分で商品ページを作成します。

その商品ページの商品写真に、『KOSHIBA』という商標が写った写真があったらどうなるでしょう?

商品写真では『KOSHIBA』商標が写ったカバン、しかし実際に販売されるのは商標が一切付されていないカバン。購入者は写真を見て『KOSHIBA』カバンが届くと思っていたのに、実際に届いたのはノーブランドのカバンだった。この『KOSHIBA』カバンが届くはずという購入者の期待は法的に保護される価値があるといえるかもしれません。そしてその保護は商標法によるべきと考えることに一定の合理性はありそうです。

すなわち、商品写真に商標が入った写真を掲載しておきながら実際に販売する商品には商品が入っていない、そのような商品ページの記載は商標権侵害に該当する、というロジックならば整合性を保てるかもしれません。実際、商品ページに商標を掲載する行為は商標法2条3項8号の商標の広告的使用に該当するとされますし、特許庁の見解では2条3項2号にも該当するとされています。

楽天などで各出品者が作成した自己の商品ページは、アマゾンでは同一カタログにまとめられます。つまり、商標部分の商品写真が掲載されている商品カタログに出品する行為は、楽天でいうならば自社の商品ページに他人の商標写真を掲載することと同じといえます。そう考えると、アマゾンで他人の商標部分が載っている商品カタログに相乗り出品する行為は、その商品ページの記載が商標権侵害となるということになりそうです。

強調しているように、法律上問題になるのはそのような商品ページの記載です。通常はこうした商品ページを作成することとそこで商品を販売することはセットなので、その商品ページを削除することと、商標がついていない商品を販売停止させることは事実上同義です。

ところがアマゾンではひとつの商品カタログで商標が付いている商品(合法)と付いていない商品(違法)の両方が販売されるため、商品カタログを削除すると合法な商品まで販売停止させてしまうことになります。そこでアマゾンでは、そのような商品カタログへの出品を取り下げることで違法な販売を停止させることとしています。

ここでも相乗り出品自体が商標権侵害だと言っているのではなく、あくまでそのような商品カタログが違法であり、違法状態を解消するために出品を取り下げるという手段を採っているだけだという構造を正しく理解することが重要です。要はあくまでもアマゾン規約レベルの運用だということです。

こう考えると、アマゾンが商品本体に商標を入れること商標部分の写真を掲載することを相乗り排除の前提していることの合理性が見えてきます。

本当に商標権侵害しているのか? 〜小売役務商標(第35類)編〜
一方で、商標権が以下の内容の場合はどうでしょうか。

指定商品:かばん類の小売(第35類)
登録商標:KOSHIBA

商品カタログには商標部分が写った商品写真が掲載されています。

この場合は、前回解説した通りです。小売という役務に付随する役務が権利範囲ですから、商品にどんな商標がつけられているかは関係ありません。もちろん商品カタログの写真が何であっても権利範囲に影響しません。

実際、商品カタログ上小売役務商標の内容が現れるのは、その商品を販売する「店舗名」の部分のみです。「この商品は、◯◯が販売し、××が発送します。」という文言で表示される部分です。店舗名は、相乗り出品であれば相乗り出品者の店舗名が表示されます。この場合、何ひとつ商標権侵害をする要素がありません。例えばもしシャネルが小売役務商標権を持っているとして、シャネルの商品カタログに本物のシャネルを出品したら商標権侵害となるのでしょうか?当然そんなことはないですよね。これと同じ話です。アマゾンでは、店舗名に問題がない限り、小売役務商標権を侵害することはありません

歪められた商標権
ところが、アマゾンは規約変更後も小売役務商標か商品商標かにかかわらず相乗り排除を行っています。これはまさに商標権侵害の定義が法律的な定義ではなくアマゾン独自のものであることを表しています。

また上述のように「商品本体に商標を入れること」や「商標部分の写真を掲載すること」を相乗り排除の要件としていることも、商標権侵害をアマゾン独自に定義していることを示しているといえます。商標法の観点からは、商品本体に商標が付いているかどうかは商標権侵害をするかどうかには何の関係もありません。商品本体に商標を入れないといけないというのは、あくまでもそうしないとアマゾン規約違反として相乗り排除できないという要件に過ぎないのです。

このように相乗り排除において商標権侵害かどうかの判断は、アマゾンの都合により、アマゾン独自の基準で判断されます。ここには本質的な意味で法律が入る余地はありません。なので、相乗り排除について法律の専門家に相談しても正確な回答が返ってこないことが多いです。むしろ正確に法律的な回答をされると余計に混乱してしまいます。重要なのはアマゾンの規約や運用を理解することです。

アマゾンも苦しい
なぜアマゾンは法律的な正確さを欠く、独自の解釈を行なっているのでしょうか。一言でいえば、アマゾンにその判断能力がないからです。

仮に裁判であれば、相乗り排除する方される方も弁護士を立て、それぞれの主張を公平に判断するのは裁判官です。すべてが専門家で構成されたレベルの高い判断が期待できます。

一方で相乗り排除は、繰り返しますがアマゾン内部の問題です。相乗り排除する方もされる方も素人、そしてそれを判断するのもアマゾンカスタマーサポートのド素人です。彼らに法律的な微妙な判断が正確にできるわけがありません。アマゾンもこんなことのために専門家を大量に用意するコストは到底掛けられないでしょう。

結局、全員が素人の争いの中で効率的な解を見つけるためには、「アマゾンではこういう運用です、嫌なら販売をしてくれなくて結構です」とするしかなかったのです。上述のように小売役務商標で相乗り排除することに、法律的な根拠はありません。ですがアマゾンカスタマーサポートにはそういう判断をしてより大きなトラブルに発展するリスクを負うことはできないのでしょう。独自のルールを定めて形式的に適応するしかない。やはり相乗り排除はどこまでもアマゾン規約の問題なのです。

狙うは「ギャップ」
これまでは主に相乗り排除する方の立場から解説をしてきました。一方で、相乗り排除されてしまった方はもうどうしようもないのでしょうか?

確かに商標権を根拠に相乗り排除されてしまうと、そのカタログに出品するのは商標権侵害ということですから、その後も販売継続するのは難しそうに思えます。しかし、上記説明してきたように、その「商標権侵害」はあくまでもアマゾン独自の基準です。法律的な定義とはいろいろな部分で差があります。商標権侵害かどうかは本来的に法律の問題である以上、アマゾンの勝手な解釈が入るのはおかしいはずです

なので、相乗り排除されてしまった場合で、その理由に法的な根拠がないと考えられる場合は、そのギャップの部分をアマゾンと争うことができる可能性があります。例えば、小売役務商標権で相乗り排除された場合、おそらく訴訟をすれば商標権侵害をしないという結論を得られるでしょう。その内容をアマゾンに対して主張してみれば、何らかの対応がなされる可能性があります。

商標権は潰せる
商標権侵害のトラブルが発生したときには、いくつかの対応方法があります。

商標権侵害すると言われてしまった場合には、一般には、

  1. まず商標権の有効性を確認する(権利が満了していないかなど)
  2. 本当にその権利を侵害するか調べる(商標や商品が同一・類似であるかなど)
  3. 正当な使用理由がないか調べる(先使用権等)
  4. どうやら侵害しそうだという場合には、商標権を潰してしまう(無効審判、取消審判)
  5. 潰せなそうならば、ライセンスや商標権自体をもらう交渉をする
  6. どうしようもない場合は販売停止や商品の仕様変更を行う

という手順を踏みます。上記説明してきた内容は、2の「本当にその権利を侵害するか調べる」ための情報です。

そして4にある通り、商標権を潰すというのは、侵害対応の一般的な手続きです。おそらく個人や中小企業の方だと「国家が認めた商標権がそう簡単に潰せるわけがない」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。販売停止や商品仕様変更する前に相手の商標権を潰そうとするのは、商標の世界では極めて当たり前なのです

不使用取消審判なら簡単&低コスト
商標権を潰す方法にはいくつかありますが、ここでは不使用取消審判を紹介しておきます。

不使用取消審判とは、商標登録後、3年間継続して商標を使用しない期間があったら、その商標は取消しの対象となるという規定です。通常は登録してからその商標を使わないうちに3年経ってしまったというケースが多いです。

特に有効と思われるのは、相乗り排除の根拠となった商標権が総合小売商標の場合です。総合小売とは、ざっくりいうと衣食住に関するあらゆる商品を広く扱っている場合に、個別の商品名を列挙せずに「総合小売ストア」のブランドとして商標登録する場合です。デパートや大手スーパーがこれに該当します。

総合小売商標を登録するのは要件が厳しく、仮にどれだけ商品幅が広くても「食」の部分の商品を販売していなければ登録することはできません。細かい説明はここでは省略しますが、中国輸入の場合食品を扱うことはほとんどないので、総合小売の要件を満たすことは極めて少ないです。ところが、登録時には事業計画書を出しさえすれば良いので、食品を扱わなくても総合小売商標が取得できてしまうのです。この運用を悪用して、事業計画書を適当に書いて総合小売商標を取得する人がいるようです。そのような権利に基づいて相乗り排除された場合は、不使用取消審判を請求して権利を潰せる可能性があります。詳細はお問合せください。

正義と悪の狭間で
アマゾンでは、同じ商品は同じ商品カタログで販売しましょうというのが大原則です。これは相乗り出品する人はもちろん、相乗り排除する人もわかっているはずです。ですが、どうしても相乗り排除せずにはいられない。そこには一種の正義が垣間見えます。

商品カタログを作成して新規出品する人は、その商品を発掘し、品質を上げ、価格を調整し、商品カタログを育ててきたという自負があります。商品レビューを改善するためにコストをかけて検品していることも多いようです。

一方で、そうして育てた商品カタログに誰かが相乗り出品すると、単純計算で売上が半分になります。もし5人に相乗り出品されると、自分を含めて6人がその商品カタログで販売するわけですから、売上は当初の1/6になってしまいます。これではもはや商売になりません。しかも相乗り出品者はその商品への思い入れがないから品質などにこだわらない。ろくな検品もせずに不良品率の高いまま販売し、そのせいで悪いレビューがたくさんついてしまい、商品の売上がさらに下がる。まさに悪循環です。

こう考えると、相乗り排除したいという気持ちは感情的に理解できます。それどころか、品質の良い商品を長くお客様に届けたいという想いは正義であるとも言えます。

ただし、重要なのは、その正義がアマゾン規約に必ずしもマッチするわけではないということです。例えば自分は検品をしっかり行い不良品率が1%以下であるのに対し、相乗り出品者は中国製品の横流しで不良品率が30%以上ある、そのせいで悪いレビューがたくさんついて商品が売れなくなった、このような出品者は迷惑なのでこの商品カタログに出品しないでほしいと思うことは常識的に正しいですし、商売上正義なのだと思いますが、現行のアマゾン規約では「それらの商品は同じ商品カタログカタログで売りなさい」と決められています。この点を忘れてはいけません。

現行規約上どうにもならないので、仕方なく商標権を用いて相乗り出品するわけです。本当は商標を取ろうが商品本体に商標を入れようがお客様の利益にはならないけれど、相乗り排除するただその目的のためだけに商標登録をして商標権侵害を主張する。これが現在の相乗り排除の本質です。

本来ならば

品質の悪い商品を販売している → アマゾン規約違反である → 相乗り排除してもらう

と主張したいけれど、これは規約上違反行為ではない。そこで形式的に

商標権侵害をしている → アマゾン規約違反である → 相乗り排除してもらう

として相乗り排除という目的を達成する。この構造を理解しておかないと、小売役務商標で相乗り排除することの仕組みや意味を正確に理解できません。

今後の展望
さて、今回は現在のアマゾンの運用では商品商標のみならず小売役務商標でも相乗り排除していること、しかしそれには法律的な根拠はなくアマゾン独自の運用であることを説明しました。また、そのような運用に対しては、法的な根拠を示すことにより対応の余地があることもお話しました。

昨年5月の規約改正では、小売役務商標では相乗り排除できなくなるというのが専らの噂でした。当時は商標権を取得さえしておけば、アマゾンは無条件で相乗り排除してくれたのです(もちろん法的根拠はありません)。アマゾンはこうして形式的に商標権を取得した相乗り排除が相次いだことにほとほとうんざりしていました。改正で小売役務商標による相乗り排除ができなくなるとの大方の予想を覆し、アマゾンは遥か斜め上を行く改正をしてきました。この改正についてはPart1から続けて解説して参りました。

今回、このような改正を受けて、中国輸入業界では、新たな相乗り排除手法が確立しました。つまり上述の3要件をクリアしてしまったのです。タオバオやアリババの転売では商品本体に商標を入れるなんてできないだろうとアマゾンは踏んでいたのでしょうが、最近は簡易OEMなどといい、市場で流通している商品に刻印だけする・タグだけつけるという強引な手法で形式的に規約に対応するようになりました。今度は相乗り排除側がアマゾンの斜め上を行く対応を行ったのです。

これにより、昨年の規約改正の意義が事実上なくなってしまいました。この状況にアマゾンは当然だいぶ苛ついているようです。前回規約改正されたときと同じような空気を感じることができます。おそらく、遠くない未来にアマゾンは次の規約または運用改正を行い、さらに相乗り排除しづらくなるものと予想されます。中国輸入そのものを排除するという噂もありますが、真偽は不明です。ただしいずれにせよ商標権を用いても相乗り排除しづらい方向に進むことは間違いないでしょうし、特に法律的な根拠のない対応は今後難しくなっていくでしょう。弊所にも商標出願につき多くのお問合せをいただいておりますが、皆様にご案内させていただいているのは、やはり小売役務商標(第35類)での出願はリスクが大きいという点です。登録には4-5ヶ月掛かりますので、登録になった頃には規約が変わり相乗り排除できなくなっている可能性も決して低くありません。今後はアマゾンの相乗り排除にこだわらず、商品そのものをブランディングしていくことを心掛ける必要が出てくるでしょう。それが本来の商標権の役割です。

アマゾン向け商標権取得専用のプランをご用意しております。出願前のご相談〜出願〜登録〜相乗り排除までを包括的にサポートする特別プランです。出品者の皆様は是非ご利用ください。

その他商標登録・権利行使についてのご相談は随時受け付けております。お気軽にお問合せください。